リンカーネーション

著:淡雪 Awayuki

Reincarnation
 
1

遠のく意識の中、あたしは、夢を見る。

あたしとあなたが、二人で笑い合いながら、草原を走り回る夢。
 

でも、それは叶わなかった。

だって、あたしは黒人で、あなたは白人だから。

何もかもが肌の色で区別される世界だから、本来、関わるはずがなかった。

でも。

あたしは覚えている。

まだほんの子供だった頃、仕事中に暑さで倒れかけていたあたしに「大丈夫?」って声をかけてくれて、水を飲ませてくれた。

これを恋なんて呼ぶには、あまりにも拙いかも知れない。

あたしは、何にも知らないし。生まれた時からするべき仕事が決まっていて、家族と一緒にその仕事をずっと続けていくっていう人生だから。

でも、あの日の思い出が支えになっていたから、生きてこられた。それにしても、死んじゃうのが早すぎるかなぁ、なんて思ったりもするけど。
 

あぁ、神様なんて方がいらっしゃるのなら。

今度会う時は、あの人の隣に堂々と立っていられるような、そんな人間にして下さい――

 

―もう一度、彼と会いたいですか?今度は、隣に並べるような人間として。

―はい。お願いします。

―承知しました。前世の記憶が引き継げるのは、あと99回となりました…
 

2

ばーか。

君が戦争に行っちゃうなんて、あたし、聞いてない。

なにカッコつけちゃってるんだよ。幼馴染のくせに。

「クリスマスまでには帰れるから、帰ってきたら結婚しよう」なんて、そんな手紙残して勝手に出征しないでよ。

あたしが手紙に気付いた時には、もう君が旅立った後だったんだから。

見送らせてよ。

ねぇ。

なんで、戦争なんかに行っちゃったの?

戦争って、人を傷つけるんだよ。

演説で言っているような綺麗事、戦地では通用しないって。

君のいなくなった街は、くすんで見える。

 
…また、一緒にいられなかった。

あたしは、前世で君と出会い、次は隣に堂々と立っていられるような人間になりたいって願った。

一時だって、隣に立っていない。

ずっと、守ってもらっていた。

そしたら今度は、戦争に行っちゃった。

戦況が悪化しているのは、街に届く物資の少なさが物語っている。

そして、届いたのは一通のハガキ。

そこに書いてあったのは、あなたの戦死を伝える淡白な文章。
 

輪廻転生。

あたしたちは、それをしたんだと思う。

じゃあ、もう1回。

輪廻転生とやらを、しようじゃないか。

神様。

次こそは、一緒にいさせて下さい。

あたしはそう願って、輪っかに首を入れ、上に乗っていた椅子を蹴飛ばした。

 

―あと、98回です

 
3

あたしたちは前世から繋がっていたんだ。

それを二人で認識した途端に、別れがやってくる。

じゃあ、前世のことなんて確かめなければいいんだ。

少しでも傍にいたいから。

あたしは、前世の記憶があるかどうかを尋ねるのをやめた。

君も、あたしが尋ねないと思い出さないみたいだし。

君に記憶がなくたって、あたしが覚えていて、一緒にいられるのならそれでいい。
 

そう思って、あたしはそのことについて何も言わなくなった。

いつしか、たくさんの人間の中から君を見つけられなくなった。
 

4

これが最後の転生だったなあ。

病室の真っ白な天井を見つめて、物思いに耽る。

100回も転生してしまった。あたしって相当しつこいかも。

人間よりもAIの数の方が多い時代。

ずっと世の中を見続けてきたあたしでも、わからない。

なんで、人間は進化を止めてしまったのだろう。

この世界は人間からAIに主導権が手渡された。つまり、次の地球の支配者はAI。生物ではなかった。

でも、何をもって人間とAIを区別できるというのだろう?

AIは、衰退していく人間の世話をし続け、最期を看取って、それで、どうするのだろう?

数え切れないほど長い年月を生きてきたあたしは、そんなことを考える。

あたしは、普通の人間よりもAIに近かったから。

 
「失礼します」

看護師のAIが病室に入ってくる。

新人なのだろうか、若い男性も一緒だ。

「今日は、ヘムくんを紹介します。リンさんに是非お会いしたいと言っていたので」

ヘムという名の若い男性は、あたしに向かって頭を下げた。

「はじめまして、リンさん。…この時代では」

「えっ…」

ヘムは顔を上げ、ニコッと笑った。

「あなたのこと、初めからずっと知っていました。あなたは途中から、分からなくなったみたいですけどね」

あたしの視界は、とめどなく溢れてきた涙で歪んでいった。

もう、会えないと思っていた。

大好きな人。

あたしはヘムを抱きしめた。

ヘムの心臓は、不自然なほどに規則的なリズムを刻んでいた。

 

その日の夜、リンは眠るように息を引き取った。

隣ではヘムがずっと手を握っていた。

 
「AIになった僕でも、彼女は愛してくれたんでしょうか」

看護師に訊いてみる。

「プログラミングされた答えしか用意出来ないけど、それでも私の考えを聞きたい?」

看護師は皮肉っぽく笑った。

「いずれにせよ、100回も転生を繰り返したんだ。もう休ませてあげた方がいいだろうね」

「…そうですね。じゃあ、僕もお願いします」

僕は看護師に背中を向けて座る。

すると、体内に埋め込まれた複雑な回路が露になった。

「あんた、100回も後を追っているのかい?私には理解できない」

「…ただ1回だけ、僕が先に逝ったことがありました。ずっと昔、初めの頃です」

懐かしいなぁ。

でも、今日で終わりか。

「…じゃあ、いくよ。」

看護師は専用のハサミで回路をぶった斬る。

これで、ずっと一緒にいられるんだ。

死後の世界とやらが、あるのなら。

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