影踏み王子

著:遥飛蓮助  のちにYは語る。 *  T県S町に住む子どもたちの間で、『影踏み王子』と呼ばれるものの噂がある。  十三夜の晩、月明かりの下で影踏み鬼をすると、影の中から現れるという黒いおばけのことだ。  頭部は人の形をしているが、のっぺりとした顔には鼻と口がない。目はあるものの、それぞれ大きさが異なるらしい。  右目は顔半分を占めるほど大きく、ごま粒大の黒目がキョロキョロ動く...

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イマジナリ―ブラザー

著:砠 新樹  イマジナリ―ブラザー(架空の兄)は実在する。およそすべての人の心に踏み入ることができる──。人は言う。しかし私はついぞ彼に出会ったことがない。彼が現れたと教えてもらって、さまざまな土地や人を尋ねたが、そんな私を見て笑うかのように、架空の兄は現れない。十年ちかくそうして諸国を旅し、両親が病に倒れたと報せを受けて故郷に帰ってからは、いつしか自然と彼のことを忘れていた...

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小指落としの怪

著:森凰みつちん 第一話 ①    空っぽの炊飯器を見つめていたとき、浩太郎はうちひしがれる思いに駆られた。あんまりにも何もないため、そのまま自分の器に当てはまるように思えたのだった。   器の計り知れない男であると自身に言い聞かせて生きてきたが、その器にからっきし中身がなく、底が知れていることはもう自身の心には隠しきれなかった。できれば目を背けていたかったと、自発的かつ自虐的...

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